小説

そして彼女は、私が書いた手紙を丁寧にしまった。

【今週の日曜日さ、死んでみようかなって】

 怠い午後。つまらない保健体育の授業を聞き流しながら、彼女から届いた手紙を開いてみたら、そんな言葉が書いてあった。隣の席に座る彼女の顔を、ゆっくりと見上げる。目が合った。私の視線に気付いた彼女は、真剣に授業を聞いている風な顔をしたまま、伏せた睫毛の数ミリだけで笑ってみせた。

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蝉と黒ギャル

夏の気まぐれな号泣が止み、再び蝉が騒ぎ出した。見えない煙のように立ち上がる蜃気楼のなかで、彼女は蝉の大量発生のニュースを思い出す。十三夏(とみか)というのが、彼女に与えられた名前だった。おもちゃみたいな名前、そして、名前の通りおもちゃみたいな人生だった。乱雑に仕舞われたおもちゃ箱のなか、それが学校生活、ひいては社会に対して十三夏の抱いている印象だった。その認識は重苦しく、常に彼女の生活にまとわりついていた。

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エトピリカの嘴の先へ

「ロク、お腹空いたね」 そうやって言葉にしたとき、私はロクの名前を思い出した。 ロクはふわふわの太い尻尾を振り回して、軽やかな雷のような声で返事をして、私の隣に座った。

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同心円波発射中

旧記によると、仏像や仏具を打砕いて、その丹がついたり、金銀の箔がついたりした木を………ここに出てくるのは、限りなく世界の終わりに近い光景だ。だけども本物の終末というのは、人々が想像したよりもずっと穏やかな物なのかもしれない。

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珈琲片手にあなたのママを探しましょう

「まみぃ~店長ぉ! 新しいカフェメニューブックが完成したであります!」「抹珠……普通に茉美って呼んでくれない?」もしくはカフェのママ。……どれどれ、見せてもらおうか。発注していた木製のメニューブックに、抹珠がデザインしたメニュー表が数ページ続いている。

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金魚の遊戯

外の空気は朝露に濡れた植物の匂いがした。僕は店の裏口から外に出て、いつもの軒下で煙草を吸う。郵便配達のバイクがどこかの路地で音を立てて走りだした。ようやく街が目覚め始めたみたいだ。二車線の通りに車の往来はまだない。ランニングしている人が通り過ぎていっただけで、それ以外に人の往来もなかった。

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