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蝉と黒ギャル

夏の気まぐれな号泣が止み、再び蝉が騒ぎ出した。見えない煙のように立ち上がる蜃気楼のなかで、彼女は蝉の大量発生のニュースを思い出す。十三夏(とみか)というのが、彼女に与えられた名前だった。おもちゃみたいな名前、そして、名前の通りおもちゃみたいな人生だった。乱雑に仕舞われたおもちゃ箱のなか、それが学校生活、ひいては社会に対して十三夏の抱いている印象だった。その認識は重苦しく、常に彼女の生活にまとわりついていた。

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金魚の遊戯

外の空気は朝露に濡れた植物の匂いがした。僕は店の裏口から外に出て、いつもの軒下で煙草を吸う。郵便配達のバイクがどこかの路地で音を立てて走りだした。ようやく街が目覚め始めたみたいだ。二車線の通りに車の往来はまだない。ランニングしている人が通り過ぎていっただけで、それ以外に人の往来もなかった。

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